空調や換気扇など、空気の通り道になくてはならないダクト。
通り道はあるものの、ある程度の圧力(=静圧)がなければ空気を目的地まで送り届けることはできません。
送り届けるためには、ダクトの大きさや状況によって異なる静圧を正確に計算し、能力に合った送風機を選定しなければなりません。
ここでは、ダクトにかかる静圧の計算方法を紹介します。
新しい送風機に変更、もしくは新たに送風機を取り付ける際の参考にしてください。
ダクトにかかる静圧とは
空気を送るには圧力がなければ、目的地まで届けることはできません。
圧力には動圧と静圧があり、この2つの圧力によって途中で止まることなく、安定して空気を送り届けることができるのです。
その大切な圧力のひとつである静圧から解説していきます。
静圧とは、空気の通り道であるダクトにかかる力のことです。
この圧力があることにより、ダクト内にある空気を押し出すことができます。
静圧は車のガソリンと同じです。
ガソリンがなければ目的地に行くことができないように、ダクト内に静圧がなければ目的地まで空気を送り届けることができません。
いつまでも空気はそこに留まったままになってしまいます。
空気を押し出すためにかけるだけが静圧ではありません。
一方が塞がれた状態でも静圧は生じ、それはダクトの大きさで異なります。
ダクトが小さく細ければ、押し出すのに相当な力が必要です。
一方、大きく太ければ、押し出す力はそこまで必要ではありません。
空気の体積は変わらないので、ダクトのサイズでかかる静圧も変わります。
ダクトにかかる静圧を計算する目的
なぜダクトにかかる静圧を計算するのでしょうか。
上記でも話しましたが、静圧は空気の流れがなくともかかる圧力です。
そのため、空気の流れがあればダクトにかかる圧力は変化するため、圧力の損失を含め、計算することが必要になります。
圧力損失の計算式については次の章で紹介しますが、ダクト内では静圧と動圧の圧力損失が生じているのです。
ベルヌーイの定理では、静圧と動圧の和は一定であると示されていますが、あくまでも非摩擦が前提であり、摩擦が生じてしまう状況では当てはまらないこともあります。
ダクトの表面に空気が当たれば少なからず摩擦は生じます。
その摩擦により圧力が損失するため、計算し正確な静圧を知る必要があるのです。
ここで少しベルヌーイの定理について説明します。
ベルヌーイの定理とは、流体のエネルギーの和が流線上で常に一定であるという定理です。
この定理は、1738年にスイスの物理学者であるダニエル・ベルヌーイにより発見されました。
常にエネルギーの和が一定になるよう、速度が上がれば圧力は下がり、圧力が上がれば速度は下がると働くのです。
ちなみに静圧と動圧の和のことを“全圧”といいます。
機外静圧とは
摩擦による圧力損失を含め、目的地まで空気を届ける必要があります。
その際、風量を気にするだけでなく、圧力損失によって失われた圧力があったとしても、必要な力がかけられるものでなければなりません。
その圧力を“機外静圧”といいます。
機外静圧は機外での摩擦などの抵抗がなければ、機外静圧はゼロです。
しかし、ダクトが長くなればなるほど摩擦などの抵抗は大きくなるため、機外静圧がかかり、風量は下がってしまいます。
送風機を選定する上で、風量がどのくらいあるのかも大切なことですが、機外静圧がかかった状態での風量を知ることが重要です。
そのため、機外静圧と風量のバランスは送風機の能力線図にて決めるようにしましょう。
ダクトにかかる静圧の計算式
ダクトにかかる静圧を知るには、摩擦による圧力損失がどの程度をあるのかを計算すればわかります。
それにより、送風機を決める判断材料となるのです。
1つの送風機に対し、受ける圧力損失は違います。
そのため、すべてのダクト内の圧力損失を計算し、それらをすべて足すことによりすべての圧力損失を求めることが可能です。
計算式は下記のようになり、直管部と分岐部それぞれを紹介していきます。
直管部の圧力損失{△Pt(Pa/m)}の計算式
△Pt=λ×(I/d)×Pv=λ×(I/d)×(v^2/2)ρ
λ=0.0055×{1+(20000×ε/d+10^6/Re)1/3}
Re=v×d/ν
ν=μ/ρ
記号の説明は下記のとおりです。
λ 直管の摩擦係数
I 直管部分のダクトの長さ(m)
d ダクトの直径(m)
v 風速(m/s)
ρ 空気密度(kg/m3){=1.2}
ε 絶対粗度(m){=1.5×10^-4 亜鉛鉄版}
Pv 動圧(Pa)
Re レイノルズ数
ν 動粘性係数(m2/s){=1.5×10^-5(20℃で)}
μ 粘性係数{=1.8×10^-5(20℃で)}
上記の方法にて、ダクトにかかる圧力損失(静圧)を計算できます。
風量の計算式は下記のとおりです。
v=Q/σ
円形ダクトの場合 v=Q×4/(π×d^2×3600)
長方形ダクトから円形ダクトに変換する場合 d=1.3[(a×b)5/(a+b)2]1/8
記号の説明は下記のとおりです。
v 風速(m/s)
Q 風量(m3/h)
σ 断面積(m2)
π 円周率(3.14)
d 相当直径(m)
a、b 長方形ダクトの長辺(m)、短辺(m)
長辺と短辺が決まれば、正確な円形ダクトの算出が可能です。
長方形から円形に変換する場合も同じ公式を使用しますが、こちらに関してはあまり使用することはありません。
ダクトには直管以外にも分岐した管が存在します。
こちらは直管部とは異なる方向の風が流れるため、かなりの圧力損失が生じることに。
計算で正確に算出することは難しいですが、下記の計算式で求められます。
分岐部の計算式
△Pt(Pa)=ξ×Pν=ξ×(ν^2/2)ρ
記号の説明は下記になります。
ξ 局部抵抗係数
ν 風速(m/s)
ρ 空気密度(20℃ 1.2kg/m3)
局部抵抗係数はダクトの形状によって異なるため、それぞれの抵抗係数を紹介。
下記の表を参考に、該当する局部抵抗係数で計算してください。
エルボ(円形)
R/D R/W 0.5 0.75 1 1.5 2
抵抗係数 0.71 0.33 0.22 0.15 0.13
エルボ(矩形)
H/W 0.25
R/D R/W 0.5 0.75 1 1.5
抵抗係数 1.3 0.57 0.27 0.22
H/W 0.5
R/D R/W 0.5 0.75 1 1.5
抵抗係数 1.3 0.52 0.25 0.2
H/W 1
R/D R/W 0.5 0.75 1 1.5
抵抗係数 1.2 0.44 0.21 0.17
H/W 4
R/D R/W 0.5
抵抗係数 1.1
割込分岐(90°)
V3/V1 0.2 0.4 0.6 0.8 1
抵抗係数 0.26 0.12 0.07 0.11 0.24
直角円すい分岐(90°)
V3/V1 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4
抵抗係数 0.85 0.74 0.62 0.52 0.42 0.36 0.32
コニカル分岐(45°)
V3/V1 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4
抵抗係数 0.84 0.61 0.41 0.27 0.17 0.12 0.12
急縮小
A1/A2 2 4 6 10
抵抗係数 0.26 0.41 0.42 0.43
ダンパー羽根4枚 θ=0 抵抗係数:0.52
25mmグラスウール内張り吸音ボックス 抵抗係数:1.4(a/L)0.83×(H/L)-0.53
この計算式を用い、圧力損失を計算し、送風機との風量とともに検討してください。
ほかの方法として、抵抗線図を用いて該当する送風機を決定する方法もあります。
分からないことがあれば、メーカーに直接問い合わせてください。
一点ほど注意点があります。
圧力損失を計算する際、全圧基準にて計算しているため動圧分まで入っていることも。
そのままで設定してしまうと動圧が大きくなるので、送風機の吐出動圧分を引くことを忘れないでください。
ダクト径を決める方法
必要な風量に対し、ダクト径も合ったものが必要です。
合わないダクトを導入してしまうと負荷がかかりすぎたり、ダクトが早く劣化したりなど、安定した空気を送ることができなくなってしまいます。
ダクト径を決める際、圧力損失と風量が大きくなりすぎないことが絶対条件です。
送風機が持つ静圧や振動などを考えながら、上記の条件を適応するために決めていかなければなりません。
その際、圧力損失は1.0Pa/m以下、風速は10m/s以下と一定の基準を設けています。
ダクト径を決める方法として、定圧法と等速法があります。
用いられることが多いのは定圧法になりますが、それぞれどのような方法なのか説明していきましょう。
定圧法とは、すべてのダクトの摩擦による損失が一定になるよう、それぞれのダクトの寸法を決める方法です。
等速法とは、ダクト内に流れる風速が許風速内になるようダクトの寸法を決め、ダクト内で一番抵抗の大きいダクトに合わせて決める方法になります。
定圧法は圧力損失が大きくならないため、最適なダクトの寸法を決めるには適しています。
しかし、静圧を基準として決めるため、それぞれの吹出口や吸込口の風量のバランスが悪くなりやすいです。
そのため、吹出口や吸込口には風量を調節できるVD(風量調節ダンパー)があるものを設置しなければなりません。
ただし、計算は簡単です。
摩擦損失の設定条件を決め、送風機から一番遠い吹出口や吸込口の通過風量からダクトの寸法を決め、静圧損失を計算。
ほかの吹出口や吸込口までの静圧損失も決めていきます。
先ほど計算した一番遠い吹出口と吸込口の数値が同じになるよう、それぞれの状況に応じた摩擦損失や局部抵抗損失を計算し、それぞれの寸法を決定。
等速法は、それぞれの吹出口や吸込口の風量が同じなので、定圧法のように風量のバランス問題は起きません。
しかし、ダクトにかかる圧力が大きくなりすぎることもあるので、圧力に耐えられない低圧のダクトを決めるには不向きな方法になります。
ダクト径を決める際も、風量や圧力損失の計算で求めた摩擦抵抗線図やダクトメジャーを用いて決める方法があります。
まとめ
今回は、ダクトと関係の深い静圧について解説しました。
空気の流れに力であるエネルギーを与えるのは静圧の役目であり、たとえ空気の流れがなくとも圧力があるのが静圧です。
しかし、摩擦によって静圧も失われてしまいます。
その損失された圧力を含めて計算することで、正確なダクト内にかかる静圧を知ることができます。
送風機の能力である風量や損失など、専門的な知識が計算する上では必要です。
そのため、わからないことがあればメーカーなどにお問い合わせするようにし、最適な送風機を導入しましょう。