ダクト内のトラブルは、空調の効きだけでなく建物全体のトラブルに繋がることがあります。
その原因は主に「汚れ」「漏水」「振動」の3つです。
いずれも接続部で多く発生します。
ダクト内トラブルの原因と被害、さらに各種ダクトの接続方法によるトラブルの防止対策について紹介します。
ダクトの静圧とは
オフィスビルで会議室を使うと事務所の冷房の効きが悪かったり、会議室を使わなくなると逆に冷え過ぎたりすることはありませんか。
これは送風ダクトの静圧が変わったために起こる現象です。
静圧とは空気を送り出す力のこと。
行き止まりのある空間や、狭いところに空気を送ると抵抗が発生します。
静圧について風船でたとえてみましょう。
風船を膨らませるために空気を送り続けると、これ以上空気が入らないという状態になりますね。
この状態を静圧が最大になった状態「最大静圧」といいます。
最大静圧は、空気の出口が完全にふさがれた状態で発生するので、静圧に対して風量は0です。
逆に空気の出口が全開で、空気を送り込むファンから吐き出し口の間に障害物がない状態では、風量が最大になり静圧は0になります。
たとえば何の障害もない屋外でファンを回せば風量が最大で送られる、ということです。
このようにダクトでも静圧(空気を押し出す力)が変化すると風量は変化します。
静圧が高くなると風量は小さくなり、静圧が低くなると風量は大きくなるという関係です。
先ほどの会議室の例に戻ると、会議室の使用開始や終了などによってダクト内部や空調の吐き出し口の条件が変わったのでしょう。そのため静圧や風量に変化が起こりました。
これが冷房の効きが悪くなったり効きすぎたり、という現象が起きた原因です。
ダクト内トラブルの3つの原因
ダクトの故障やトラブルには、主に3つの原因があります。
それは「汚れ」「漏水」「振動」です。
原因1.汚れ
ダクトのトラブルの原因のひとつはダクト内の汚れです。
まず汚れによるフィルターの目詰まり。
たとえば店舗の厨房は、排気の中に油分が含まれていることが少なくありません。
この油分と水分、ホコリによりダクトに取り付けられたフィルターが目詰まりを起こし不具合に繋がるほか、引火して火災が発生するというリスクにも。
そしてダクト本体である排気経路に付着する汚れ。
排気経路内の汚れは、空気の流れを妨げ給排気能力の低下に結びつきます。
効率的に空気が流れなくなるため、ファンに負荷がかかり電気代の高騰やファンの故障の原因にも。
また、ダクトの汚れは特に接続部に溜まります。
そのため接続部に荷重がかかり、ダクトがV字に変形する原因にもなります。
原因2.漏水
室内の漏水の原因は、ダクトの水漏れに因ることがあります。
ダクトの漏水は、施工時に関係していることもあるのです。
まず勾配を取らなかったために、外部からの雨水が侵入し室内に流れていくこと。
外気を取り込んだり排出したりするために設置されているガラリには、ベンドキャップと呼ばれる蓋がついています。
これは雨水や虫の侵入を防ぐ器具ですが、台風など雨と共に下から吹き上げるような風が強く吹く場合には、ベンドキャップ内に雨水が流入することがあるのです。
ダクトの勾配が室内に向かい下がって設置されていると、雨水はダクトから建物内部へと流れ込んでいきます。
次にビス穴の問題もあります。
ダクトでは2~3箇所のビス留めをし、継ぎ目にダクトテープを巻き付けるという接続方法が取られています。
ビスは下面に打たないのが基本ですが、誤って下面に打ってしまうと勾配が悪く流れ込んだ雨水がビス穴から漏れることになります。
また、汚れにより負荷がかかってV字に勾配が付いてしまったダクトの接続部でも、結露などの水分が溜まることがあり、漏水の原因になります。
原因3.振動
振動もダクト内のトラブルの1つです。
送風機などの機器とダクトの接続部分で、振動が発生することが多くあります。
ダクトと接続する機器が、モーター音や振動を発生させるためです。
ダクト内で響いた音は、管を通って室内外の思わぬところまで届き、騒音被害にまで発展する例もあります。
また音や振動の発生する部分が共鳴し、ほかの設備の振動に繋がることも。
室内の建具のがたつきだけでなく、機器のボルトやナットが緩んで外れてしまう危険もあります。
振動の原因の多くは、施工時にダクト接続部の消音や継手など、対策を怠ったことです。
発生しうる3点の被害
施工時の不注意やメンテナンスを怠ることで、ダクトを原因とした様々な被害が発生します。
中には健康被害や設備の大幅修繕に繋がるものも。
ダクト内のトラブルで起こり得る被害について紹介します。
被害1.汚れから発生する被害
ダクトの汚れは、まず悪臭の原因になります。
悪臭はダクト内を巡るため、空調設備を使用するたびに吹出口から漂うことに。
排気経路に汚れが付着した場合は、排気効率も悪くなります。
汚れを餌として、ダニや害虫が発生するリスクも。
汚れが原因の有害物質が発生した場合には、施設全体の環境が悪化し健康被害に繋がる危険が発生します。
空気汚染や悪臭による健康被害のほかにも、ダクト内で蓄積したほこりや不純物が、施設内の製品やOA、精密機器に混入し故障を発生させることがあります。
工場においては、異物混入による不良品発生の原因にも。
飲食店であった場合は、食中毒のリスク。
そして汚れが付着して負荷がかかったファンの故障。
電気代など光熱費の高騰にも繋がります。
ダクトの汚れには、油やホコリなど可燃性の高いものも含まれます。引火してダクト火災が発生し、甚大な被害を及ぼす危険がありますので、注意が必要です。
被害2.漏水により発生する被害
ダクト内に流れ込んだ水は、勾配により水たまりが出来てしまうことがあります。
まず考えられるのは、たまった水でダクトの一部に負荷がかかりダクトが破損すること。
破れた部分から水が漏れ、施設内を汚染する可能性があります。
そして濡れた部分から錆や腐食が発生。
さらに、破損や腐食によってダクトに穴が開いてしまうことも。
ダクトの穴からは水だけでなく空気も漏れるため空調の効率も悪化します。
穴が開くことでダクトの静圧も変わり、送風機やファンの負荷も高くなります。
負荷の高い状態で運転を続けることで発生するのが、電気代などランニングコストの高騰、そして送風機やファンなど機器の故障です。
浸水した場所に細菌や不純物による有害物質が発生する可能性もあります。
有害物質による汚染がダクト内に広がり、吹出口から吐き出される有害な空気で健康被害が起こるリスクも高くなっていきます。
被害3.振動により発生する被害
振動などの低周波の音は、不快な音として騒音被害を訴えられる場合があります。
ファンやブロワの周波数がダクト内で共鳴し、給排気口から建物の外に広がり付近の住民にまで影響を与えてしまった事例がありました。
また、振動によってダクトを接続しているボルトやナットが緩み、設備内に落ちてしまう危険もあります。
ダクトを吊っているねじが外れると、接続しているダクトに荷重が加わり破損することもあるのです。
振動に影響するものはボルトやナットだけではありません。
施設内の機器やダクトに設置された送風機、ダクト自体も振動によって破損や不具合を起こしてしまう可能性もあるでしょう。
破損箇所からは空気が漏れエネルギー効率が悪くなる一方、侵入したホコリなどがダクト内を汚染します。
汚染された空気によって、施設全体の環境汚染に繋がる可能性があります。
ダクト内トラブル防止の3つの対策
ダクト内で起こるトラブルを防止するためには、清掃などのメンテナンスが重要です。
定期的なダクトのクリーニングや、ファンなどの清掃。
クリーニングを行うことは節電や機器の寿命を延ばすだけでなく、静圧や風量の安定にもつながるので効率的な運転が継続します。
ダクト内の汚れは、機器とダクトの接続部分に原因があることも多く、外部からのホコリや塵の侵入には気を付けたいところです。
室内条件に合わせて風量を調節するのがCAVとVAV。ダクト内に設置する機器で静圧の変化に対応します。
空研工業では、高い気密性能を備えたVAV・CAVを開発し、空調ロスを大幅にカットした製品を提供しています。
また、外部からのホコリや塵の影響が少なく、耐久性やアラーム出力、多点設定や連動制御にも対応。
VAV・CAVは風量設定や手動開閉など、操作の簡易性にも定評があります。
ダクト内のトラブル防止対策は、メンテナンスだけではありません。
施工時の注意によって回避できるものも多くあります。
対策1.丸形ダクトの接続方法と漏水対策
漏水の対策は「勾配」と「施工」です。
まずはガラリとダクトの勾配に注意すること。
漏水の原因は、ガラリとダクトの接続部分の勾配であることも多くあります。
雨水が吹込む可能性のある場所は、ダクトとガラリを接続する際にガラリ側に向かって下がる勾配を取ることが重要です。
そして建物内ですぐにダクトを立ち上げる工夫をすることも雨水の侵入を防ぐのに効果的です。
ガラリとダクト以外の接続部分にも漏水の可能性はあります。
施工時はきちんと接続していても、経年劣化によりダクトにずれが生じて漏水。
水や汚れが溜まってダクトに荷重がかかり、V字型になった勾配からの漏水。
V字になった勾配の谷間で、負荷に耐えられなくなった接続部から溜まった水が漏れてしまうのです。
施工時、接続部分のビスの位置に注意することも漏水対策に有効です。
ビスを打つ接続方法をとっているのは、丸形ダクト(スパイラルダクト)。
スパイラルダクトの接続方法の代表的なものは2つあります。
それが「フランジ工法」と「差し込み継手工法」です。
【フランジ工法】
高い強度が必要であるダクトで選択されています。
スパイラルダクトの接続部分にフランジカラーという部品を装着し、フランジ同士をボルトとナットで固定する接続方法です。
【差し込み継手工法】
ニップルという継手をスパイラルダクトに差し込み、鉄板ビスで2~3箇所固定します。
そして外側からダクトテープなどを巻いて完了する接続方法。
施工が比較的簡単で、施工単価が安いことが特徴です。
広く利用されている一方で、ビスの位置やダクトテープの巻き方によっては漏水の可能性が生まれます。
施工時にビスを下面に打たないこと、ダクトテープを甘く巻かないことが漏水対策に有効です。
対策2.角ダクトのフランジ工法による振動・騒音対策
ダクトの振動に対する対策は、施工方法により軽減することが可能です。
振動はダクトを接続しているボルトやナットを緩めたり、外れて落下させたりするトラブルの原因になります。
ボルトやナットを使用した接続方法は、スパイラルダクトのフランジ工法。
そして角ダクトの「アングルフランジ工法」「共板フランジ工法」「スライドオンフランジ工法」です。
【アングルフランジ工法】
アングルフランジ工法は、まず鉄やステンレスなどでフランジを作成。
フランジを溶接などでダクトの端に取り付け、フランジ同士をボルトやナットで固定する接続方法です。
接続の強度が強くなり気密性も高いというメリットがありますが、施工時間が長くなってしまい、施工単価が高くなるというデメリットがあります。
【共板フランジ工法】
共板フランジ工法は、ダクトの端を折り曲げてフランジを作成します。
コーナーピースという専用の部品をダクトの四隅にはめ込んでボルトで固定。
フランジ部分は接合クリップと呼ばれる金具のクリップではめます。
この接続方法はアングルフランジ工法に比べて強度や気密性は落ちますが、施工時間が短く、単価も安くなるというメリットがあります。
【スライドオンフランジ工法】
アングルフランジ工法と共板フランジ工法のメリットを併せ持った接続方法です。
スライドオンフランジという薄板を折り曲げた部材を、ダクトの接合部に差し込んで溶接。
四隅はコーナー金具を取り付けてボルトで固定し、フランジはラッツという金属の部材で押さえます。
溶接が必要になりますが、軽量で強度が高く施工も楽になっています。
ダクト内の振動を避けるためにはまず、モーター音が発生するような機材には消音器を取り付けること。
そして接続部分に「たわみ継手」を使用し、機器からダクトへの振動を遮ること。
ダクトを吊り下げる場合は地震対策を施したり、振動を躯体に伝えないために防振ゴムを使用したりするなどの工夫も必要です。
さらに、ガラス繊維系や合成繊維系、ゴム系などの材質を使用して振動を抑えることも対策になります。
対策3.マルチダクトシステムによる技能工不足・品質対策
ダクトの設置や接続には繊細な技術が必要である一方で、建設現場ではそれに伴う技能工不足の問題も発生しています。
この問題を解消したのが、空研工業株式会社とフジモリ産業が開発したマルチダクトシステム。
丸形ダクトの分岐チャンバー部分の接続を容易にした製品です。
【F-ONEタートルチャンバー工法】
接続部に、ワンタッチ接続用の接続管が取り付けてあります。取り付け側にはカラーテープが巻かれており、テープ部分を持って接続部分に被せます。
取り外しも60度程度回転させるだけと簡易になっています。
F-ONEタートルチャンバー工法は、ワンタッチ接続によって工期・工数の短縮が実現し、接続部の品質が均一化されているため技能工不足の問題を解消します。
そしてユニット工法を採用しているので、ダクトのレイアウトも自由。
ダクト経路を単純化することで、接続箇所を少なくすることを可能にしました。
これは複雑なダクト経路による接続箇所の不良の防止。
さらには、結露や空調不良の不具合を防ぐことにも繋がります。
まとめ
建物内の空調に欠かせないダクト。
ダクトでのトラブルは、空調の効率だけでなく深刻な健康被害に繋がる場合もあります。
ダクト内の汚れや、水が溜まって起こる悪臭や有害物質の発生。
錆などによる腐食で穴が開き、安定した空調が得られなくなることも。
ほかにも、稼働するファンや送風機の負荷に繋がり、機器の故障や光熱費の高騰など設備全体への問題へと発展することもあります。
ダクト内で発生する振動にも注意が必要です。振動は共鳴やネジの緩み、機器の不具合という建物内だけでなく、近隣への騒音被害などにも繋がることがあるからです。
トラブルは接続部に原因を持つことが多く、定期的なメンテナンスだけでなく施工時にも注意が必要です。
具体的にはダクトの勾配や、接続部への消音機の設置。
振動を軽減する部材や工法を選択することも重要です。
空研工業は、高い気密性能を備えたVAV・CAVを開発し外部からのホコリや塵の影響の少ない製品を採用。
また、マルチダクトシステムを開発し、タートルチャンバー工法によりダクト接続部の品質を保ち、トラブル防止を実現しています。