快適な空間を作るためになくてはならないのが空調設備。
そして、その空調設備の中でも、特に快適な空間作りに関わってくる部分が制気口と呼ばれる設備機器です。
人の感じる快適感は、周囲の温度や湿度、気流によって左右されています。
それらの要因を巧みに調節するのが今回解説する制気口となります。
この記事を読んで、制気口の知識を深めていきましょう。
制気口とは
まず、制気口とは何かということから解説していきましょう。
空調設備における制気口とは、吹出口と吸込口の総称として使われます。
空間の空気を快適なものにするという役割を担う重要なパーツです。
一方で、換気設備における制気口は給気口と排気口を指します。
空調で使う外空気を吸込み、空間の汚れた空気を外へ排出するという役割を持ったパーツです。
タイトルにあった「開口率」という言葉が関係してくるのは、この給・排気口にあたります。
これら制気口は、注意して見ないと普段人の目にとまる機会があまりありません。
それほど地味な存在ではありますが、空間の快適感はこれらの制気口次第で決まるといっても過言ではないものです。
では、制気口についてそれぞれ見ていきましょう。
吹出口とは
吹出口とは、給気ダクトから室内へ吹き出すための開口部分の機器です。
天井、壁、窓台、床などいろいろな場所に設置することができます。
そして、それらの設置場所に最適な形や、気流の特性、デザインなどにより数多くの種類が存在しますが、大きな分類としては「ふく流型」と「軸流型」に分類されます。
ふく流型吹出口の種類と特性
ふく流型吹出口は、主に天井面などに取り付けられる吹出口です。
吹出口の全周から放射状に風を吹き出します。そのため、吹出し気流は周囲の空気を誘引し、混合して広がるという特徴を持つ吹出口です。
その特徴から、吹出し空気温度の拡散性が良いとされています。
以下がふく流型吹出口の種類と特性です。
・多層コーン形
天井の高さが低い空間に適した形。いくつかの層に分かれたコーンから放射状に気流を吹き出します。
誘導拡散性能が特に優れているという特性もあります。
・パン形
首部分から吹き出した気流が板に当たって水平方向または垂直方向に吹き出す形。
気流方向の切り替えは中コーンを上下させ行います。
軸流型吹出口の種類と特性
次に軸流型吹出口ですが、こちらは主に壁面や天井面に多く取り付けられます。
放射状に吹出すふく流型に対して、軸流型は一定の軸方向に気流を吹出すものです。
一般的には気流の広がる範囲が小さく、到達距離が長いという特徴を持ちます。
以下、軸流型吹出口の種類と特性です。
・ノズル
到達距離が長いので、広い空間の壁や天井に設置されます。
ほかにも、騒音の心配が少ないので放送局のスタジオにも設置されることの多い種類の吹出口です。
・パンカールーバー
ノズルと同じような吹出し気流をした吹出口。違いは首が振れるようになっており、吹出し気流の方向を変更可能な点です。
・スロット形
縦横比が大きくて、全体的に細長の形をしています。
主に側壁や窓に沿って天井や窓台に設置されることが多い吹出口です。
すっきりした見た目なので、デザインの観点からはよく好まれています。
・ライン形
スロット形ではありますが、吹出し方向を切り替えられる特徴を持っています。
・パンチング形
自由面積比が小さく、大きな吹出口面積が必要になる種類の吹出口です。
・スリット形(固定羽根)
羽根が固定されており、一般的には吸込み用に使われます。
・ユニバーサル形(可動羽根)
羽根の角度を変更することで到達距離や降下度を自由に調節できることが特徴の吹出口。
これにより、一般的には吹出し用として使用されています。
吸込口
吸込口は、室内の壁や天井などに設置される制気口です。その役割は、空気を吸い込んで空調機に戻す還気ダクトや、外部に排出する排気ダクトに空間内の空気を導くものです。
また、外壁面に設置される外気の取り入れや排気のための開口部をガラリと呼び、雨水や異物が入るのを防ぐためのルーバや防虫網を備えています。
そのほかにも、照明器具の反射板に吸込口用の開口を設置し、照明から発生する熱を空気と一緒に吸い込んで、室内の熱負荷を低減させる照明吸込口といったおもしろいものもあります。
吸込口の種類
吸込口の形式としては、固定羽根形や打抜板形でシャッター付きのものが多く使用されます。劇場などでは、座席の下にマッシュルーム形吸込口が設置されることも珍しくありません。
吸込口の性能
吸込風速に関しては、吸込口が居住域に接して設置されるケースも多いため、不快感と騒音を防ぐという目的からあまり速い吸込風速は設定されません。
2.0~3.0m/s程度の範囲に抑えられています。
ちなみに、この風速を計算する際に必要なものがタイトルにもある「開口率」という数値です。
詳しくは後述します。
また、吸込口周辺の吸込気流は、吸込口から離れるほど風速は急激に減衰します。
よって、吸込気流が室内気流に影響を与えることは少ないと考えていいでしょう。
換気の目的
ここからは、制気口の役割を換気システムに視点を移して解説していきます。
まず、換気の目的から見ていきましょう。
換気の目的とは、密閉された室内の汚染された空気や熱、水蒸気、臭いなどを取り除き、室外から酸素と綺麗な空気を供給することです。
一般的なビルにおいて、換気が必要とされている場所は、居室、トイレ、洗面所、調理室、機械室、駐車場などのスペースとなります。
換気することで除去できる主な汚染物質は以下のものです。
- 塵埃
- 炭酸ガス
- 一酸化炭素
- 揮発性化学物質
- 臭い
- 煙
これらの換気を担う設備において、空気の出入り口となるのが給気口と排気口になります。
換気設備の制気口は、外の空間と直接繋がるので開口率が重要になってくるのです。
もう少し、換気について見ていきましょう。
自然換気と機械換気
換気の方法にもいくつか種類があり、大きく分けると自然換気と機械換気の2つになります。
自然換気とは、屋外の風による圧力差や建物内と外の温度差による空気の浮力を利用した方法です。
たとえば、冬に暖房した部屋で窓を開けると、室内の暖かい空気は窓の上部から外へ逃げていきます。
それと同時に、外の冷たい空気が窓の下部から室内に流れ込んできます。
この現象が、空気の浮力を使った換気方法です。
もう一つの機械換気とは、送風機を使って強制的に換気を行う方法となります。
その原理や仕組みから3つの種類に分けられています。
・第1種機械換気方式
給気と排気の両方に送風機を設置し、給気と排気を送風機で強制的に行う換気方法です。
室内の静圧は設定可能で、主に機械室や電気室、倉庫、駐車場などに使われる方式となります。
一般的に、外気を浄化するためのエアフィルターが必要です。
・第2種機械換気方式
給気用送風機を設置して給気のみを強制的に行い、排気は排気口や窓、扉から屋外に自然排気を行う換気方法。
送風機より常に強制的に室内へ空気を供給するため、室内の静圧は正圧となります。
よって、排気口や窓、扉などの開口部だけではなく室内の壁や建具などの隙間からも屋外か隣室などへ空気が逃げることになります。
この方式は、常に室内を清潔に保つ必要があるケースや、ボイラーなどへの燃焼空気が必要なケースに使われます。第1種同様、一般的にはエアフィルターが必要です。
・第3種機械換気方式
給気は給気口や開口部からの外気の自然流入に任せ、排気だけ送風機を使って強制的に換気を行う方法です。
強制的に室内にある空気を排出するため、室内の静圧は負圧となります。
そのため、調理室や浴室、トイレなどのほかの部屋に煙や水蒸気、臭いが漏れることを防ぎたい場所に使われています。
給気口の位置や高さは、十分な給気量の確保や気流の経路を考えた上での配置が大切です。
必要換気量
必要換気量とは、室内の空気を清浄に保つために、最低限必要な換気量のことです。
この換気量を決めるには、その空間の使用目的と状況を考え、熱、ガス、臭いなどの換気の必要因子ごとの換気量を計算し、そのうちの最大値をもってその空間の換気量とすることが必要です。
建築物衛生法で規定されている室内炭酸ガス許容濃度を0.1%とするには、在室者1人当りの必要換気量は30m3/hとなります。
主な部屋に対する一般的な換気量は以下の通りです。
・住宅・アパート
在室密度[m2/人]…3.3
必要換気量[m3/h・m2]…9.0
・事務所(一般)
在室密度[m2/人]…5.0
必要換気量[m3/h・m2]…6.0
・ホテル客室
在室密度[m2/人]…10.0
必要換気量[m3/h・m2]…3.0
・劇場・映画館
在室密度[m2/人]…0.6
必要換気量[m3/h・m2]…50.0
・デパート(一般売場)
在室密度[m2/人]…1.5
必要換気量[m3/h・m2]…20.0
・デパート(食品売場)
在室密度[m2/人]…1.0
必要換気量[m3/h・m2]…30.0
・デパート(特売場)
在室密度[m2/人]…0.5
必要換気量[m3/h・m2]…60.0″
・レストラン・喫茶
在室密度[m2/人]…1.0
必要換気量[m3/h・m2]…30.0
ちなみに、換気回数にも数値があるのでご紹介します。
換気回数とは、換気量を部屋の容積で割った数値であり、空間の空気を1時間に取り換える回数を表しています。
・トイレ
換気回数[回/h]…5~15
・浴室
換気回数[回/h]…3~7
・湯沸し室
換気回数[回/h]…6~10
・台所(器具使用時)
換気回数[回/h]…30~40
・台所(器具非使用時)
換気回数[回/h]…3~5
・書庫・納戸・倉庫
換気回数[回/h]…4~6″
開口率が関係する制気口の計算式
制気口に関する計算式にもいろいろありますが、ここでは「開口率」が関係する計算式をピックアップして解説してきます。
まず、代表的な制気口の有効開口率は以下の通りです。
・ユニバーサル形(VH)
有効開口率(%)…65~82
・ユニバーサル形(VまたはH)
有効開口率(%)…82
・スリット形
有効開口率(%)…80~85
・パンチング形
有効開口率(%)…30~60
・ドアグリル
有効開口率(%)…35~70
・給排気ガラリ
有効開口率(%)…30~50
この開口率を利用する計算式には、風速を求める計算式があります。
なぜ、わざわざ風速を計算する必要があるのかというと、騒音防止のためです。
風速が大きくなればなるほど、制気口から風切り音が発生します。
その騒音を防止するためにも、風速の計算は必要になるのです。風速を求めるための計算式は以下になります。
風速[m/s]=風量[m3/h]/(有効開口面積[m2]×3600[h/s])
求めるために必要になる数値は、制気口のメーカーカタログに記載されているので、カタログ値を確認して計算しましょう。
ちなみに、有効開口面積は吹出口の開口面積×開口率で求めることができます。
まとめ
一口に制気口といっても、そこにはいろいろな種類や、それらを選ぶ基準、配置の方法など計算が必要になる場面が多くあります。
開口率という数値は、多くの場面で活躍する数値です。
ぜひ、開口率の数値を使いこなしてください。